【タイの特許法の概要 】

タイにおける発明を保護する法律として、特許法(Patent Act B.E.2522)が制定されています。

(1) 登録要件

特許権は、創作の時点で発生する著作権とは異なり、商標権等と同様に、登録によって権利が発生します。発明が特許として登録を受けるためには、以下の登録要件を満たす必要があります(特許法第5条)。

発明に1新規性、2進歩性が認められ、3産業上利用可能であること

(2) 特許と認められない発明

以下の発明は、特許の対象外とされています(同法第9条)。

  1. 天然の微生物および微生物、植物、動物や植物からの抽出物を構成するもの
  2. 科学的、数学的な法則や理論
  3. コンピュータプログラム
  4. 人の疾病または動物の疾病の診断、治療または治癒の方法
  5. 公序良俗に反する発明、健康や福祉に反する発明

(3) 発明者の権利

発明者は、特許を受ける権利を有し、当該権利は、譲渡または承継可能とされています。ただし、当該権利を譲渡する場合には、書面にて行われる必要があり、譲渡人と譲受人が当該書類に署名する必要があります(同法第10条)。

(4) 職務発明

 職務発明とは、会社の従業者等が職務上行った発明をいいます。

  1. 特許を受ける権利

雇用契約または業務委託契約の履行においてなされた発明について特許を受ける権利は、契約に別段の定めがない限り、使用者または業務委託者に帰属します。この点について、日本とタイでは特許を受ける権利の帰属者の定めが逆となっているため、注意が必要です。

      2. 報酬請求権

 タイの特許法においては特許を受ける権利が原則、使用者等に帰属しますが、発明活動を促進し、従業者等に公正な分配を与えるために、発明者である従業者等は、使用者等が当該発明から利益を得る場合には、通常の給与以外の報酬を請求する権利を有します(同法第12条1項、2項)。この報酬請求権は、契約上の規定によっても妨げることはできないとされています(同条3項)。

(5) 特許出願手続き

特許出願書類には、次の事項が含まれている必要があります(同法第17条)。

  1. 発明の名称
  2. 発明の性質と目的
  3. 当該技術分野またはその他の関連技術の通常の知識を有する者が、本発明を作成し実施することができるような、完全かつ簡潔で明確な記述を含む本発明の詳細な説明であって、本発明を実施するために発明者が知っている最良の態様を示すもの
  4. 1つ又は複数の明確かつ簡潔な請求項
  5. その他省令で定める事項

(6) 方式審査

出願がされた特許については、DIP(知的財産局:Department of Intellectual Property)の担当官により、出願書類が同法第17条の規定を満たしているか、また同法第9条の、特許と認められない発明の事由(不特許事由)に該当しないどうかについて審査がなされます。

(7) 拒絶通知

同法第17条の規定が遵守されていないと思われる場合、または本発明が同法第9条に基づく不特許事由に該当すると思われる場合、事務局長は当該出願を拒絶し、担当官は事務局長による拒絶の日から15日以内に、書留郵便または事務局長が定めるその他の方法により、拒絶があった旨を出願人に通知することとされています(同法第28条第1項第1号)。

(8) 出願公告

同法第17条の規定が遵守されており、本発明が同法第9条に基づく不特許事由に該当しないと認められる場合、事務局長は省令で定める規則および手続きに従って、出願公告するように命じることとされています。当該公告が行われる前に、担当官は、事務局長が定める方法または書留郵便により、出願人に対して公告手数料を支払うよう通知をします。出願人が通知を受領した日から60日以内に公告手数料を支払わない場合、担当官により出願人に対して、再度、書留郵便で通知がなされます。出願人がその通知を受領した日から60日以内に公告手数料を支払わない場合は、当該出願を放棄したものとみなされます(同法第28条第1項第2号)。

(9) 出願公告後の手続き

出願人は、当該出願の公告後5年以内、または異議申立があり審判請求が行われた場合にはその最終決定後1年以内のいずれか遅くに満了する期間内に、本発明が同法第5条の登録要件(新規性、進歩性、産業上の利用可能性)に適合するか否かの審査を進めるよう担当官に請求することができます。出願人がこの期間内に当該要求をしなかった場合には、当該出願を放棄したものとみなされます(第29条第1項)。

(10) 存続期間

特許件の存続期間は、特許出願日から20年間とされています(法第35条)。