【マレーシアにおける仲裁制度の概要】

(1) 仲裁法について

 マレーシアにおける仲裁手続は仲裁法(Arbitration Act 2005)によって規律されます。同法は、国内仲裁と国際仲裁を分けて規定しています。

 国内仲裁については、当事者による別段の合意がない限りマレーシア法が準拠法となります。国際仲裁については、当事者による合意がない場合、仲裁廷が準拠法を決定します。仲裁手続を規律する準拠法についても、当事者が合意に至らない場合、仲裁廷が決定することができます。

 仲裁合意は、書面によってなされなければならず、国内の仲裁機関によって行われた仲裁判断についても、裁判所による承認を経なければ執行をすることはできません。また、マレーシアはニューヨーク条約の加盟国であるため、マレーシア国外の仲裁判断をマレーシアにおいて執行することができます。

 国際仲裁には、仲裁法(Arbitration Act 2005)のPartⅠ(定義規定等)、PartⅡ(仲裁手続や裁定等の仲裁に関する一般的な規定が含まれる)、及びPartⅣ(仲裁人の責任等のその他の規定)が適用されます(仲裁法第3条第3項)。PartⅢ(仲裁の過程で生じる法律問題の決定を裁判所に申請する規定等の仲裁に関連する追加条項)は、当事者が書面で別段の定めをしない限り適用されません。

(2) AIACについて

 マレーシアにおける中心的な仲裁機関として、アジア国際仲裁センター(AICA:Asian International Arbitration Centre)が設置されています。マレーシア政府はAIACに対して、施設の供与及び資金の援助を行っており、マレーシア政府の様々な改革や支援を受けて受理件数は着実に伸び、AIACは今やアジアにおける中心的な国際仲裁機関の一つとなっています。

  1. 2018年AIAC規則(AIAC Arbitration Rules 2018)

  当事者がAIAC規則(AIAC Arbitration Rules)に従って紛争を仲裁することに書面で合意した場合には、当該紛争はAIAC仲裁規則に従い、仲裁により解決されます(2018年AIAC規則第1条)。仲裁地がマレーシアの場合は、仲裁法(Arbitration Act 2005)第41条(仲裁の過程で生じる法律問題の決定を裁判所に申請する規定)、第42条(裁定により生じた法的問題を裁判所に付託する規定)、第43条(控訴)及び第46条(裁定期間の延長)は適用されません(同規則第1条)。

  また、当事者が特に仲裁機関を指定しなかった場合は、仲裁廷が他により適切な仲裁地があるとの判断をしない限り、マレーシアのクアラルンプールとなります(同規則第7条)。

  このほか、2018年AIAC規則では、公平・公正でない仲裁人に対する異議の申立(規則第5条)、差止等の暫定措置に関する規定(規則第8条)、裁定に関する規定(規則第12条)、費用に関する規定(規則第13条)等が定められています。

    2. 2018年AIACファスト・トラック規則(AIAC Fast Track Arbitration Rules 2018)

 AIACでは簡易仲裁制度があり、短期間での仲裁を規定するファスト・トラック・ルール(Fast Track Rules)が当事者の合意により適用されます。このファスト・トラック・ルールによると、180日以内で手続が終了します。同ルールの下では、仲裁開始から90日で口頭審理を終え、さらに90日で裁定書を作成することになります(2018年AIACファスト・トラック規則第21条)。