(1) タイ相続法の概要
日本でいう民法に該当する規定であるタイ民商法典(Civil and Commercial Code、以下「民商法典」)において、相続についての定めがなされています。相続に関する制度の大枠自体はタイも日本と同様となっています。ただ、法定相続人の定め方やその相続分、僧侶の相続に関する規定がある点などは日本と異なります。
相続財産は、遺言がある場合には遺言の定めに基づき相続が行われ、遺言がない場合には法律の定めに基づき相続が行われます(民商法典第1603条)。遺言があっても、その相続財産全部に対しての遺言がされていない場合や遺言が無効である場合には、遺言の及ばない部分については民商法典の定めに基づく相続が行われることになります(同法第1620条)。
(2) 法定相続順位について
民商法典の定めに基づき相続が行われる場合、法定されている相続人となる者(法定相続人)及びその相続順位は、以下の通りとなります(同法第1629条、第1635条)。
第1順位 被相続人(死亡した本人)の直系卑属(子)
第2順位 被相続人の父母
第3順位 被相続人と父母を同じくする兄弟姉妹
第4順位 被相続人と父母の一方を同じくする兄弟姉妹
第5順位 被相続人の祖父母
第6順位 被相続人の叔父(伯父)、叔母(伯母)
この第1順位を優先し第6順位までの順番で、各法定相続人が相続する権利を有することとなります。基本的には、後順位の者は前順位の者が相続する場合には、相続できなくなります。もっとも、被相続人の父母に関してはこの例外として、他の法定相続人が相続する場合でも、常に子と同じ順位で相続するものとされています(同法第1630条)。
また配偶者がいる場合には、配偶者も相続人となります。配偶者の法定相続分は、同時に相続する他の法定相続人の種類により異なる相続分となっています(同法第1635条)。例えば、子が相続人となる場合には、子と同順位として同じ割合で相続し、他の相続人が第5順位の祖父母となる場合には、配偶者が3分の2の割合で相続することになります。
(3) 廃除及び相続放棄
タイにおいても法定相続人について、被相続人となる者が生前に、法定相続人となる者を廃除することにより、相続させないとする制度が存在します(同法第1608条)。また、相続人による相続放棄の制度についても、タイにおいて規定されています(同法第1612条)。
(4) まとめ
日本人がタイに居住し、タイに財産を有したまま遺言なく死亡した場合、この者の相続手続きをタイで進めるためには、上述の法定相続人の順位や分割の定めに従い、相続手続きを行うこととなります。
また相続手続きを行うために、遺産管理人として相続財産の管理や具体的な分割手続きを行う者の選任を、裁判所にて行う必要があります。
日本人のタイでの相続は、残された相続人がタイに居住していない場合、タイの国の慣習や言語に不慣れなことに加え、制度自体も把握できないことが想定されるため、あらかじめ遺言を作成しておくことや、必要な手続きについて親族間で確認しておくことが、将来の紛争や問題を生じさせないために有益であると思われます。