【マレーシアのセクシュアル・ハラスメントに関する法規制の概要 】

マレーシアにおけるセクシュアル・ハラスメントに関する法規制は、雇用法(Employment Act 1955)によって規律されます。

(1) 定義

 雇用法は、「セクシュアル・ハラスメント」(以下「セクハラ」という)を、「言葉的か否か、視覚的か否か、身振り又は物理的接触のいずれかを問わず、勤務の過程にある 人物に向けられた、攻撃的若しくは屈辱的若しくはその人物の幸福を脅かす、その人物の望まない性的なふるまいをいう。」と定義しています(雇用法2条)。そして、セクハラの申立てには、①労働者から他の労働者に対して、②労働者から使用者に対して、③使用者から労働者に対するものの3類型が含まれます(雇用法81A条)。

(2) 使用者の義務等

 セクハラの申立てがあった場合、使用者又はこれに準ずる者は、大臣が定める方法によって当該申立てについて調査しなければならない(雇用法81B条)。

 調査の結果、セクハラの存在が証明されたと考えるときは、使用者は①セクハラを行なった者が労働者であるときは、予告期間を設けない解雇、降格又は解雇・降格よりも軽い処分(無給の自宅待機処分の場合にはその期間は2週間を超えてはならない。)のいずれかの懲戒処分を、②セクハラを行なった者が労働者以外の者である場合にはその人物が所属する適切な懲戒主体に処分を委ねるものとされています(雇用法81C条)。

(3) 被害者への救済

 使用者が調査を拒否した場合、申立てを行なった者は労働局長に対して申立てをすることができ、労働局長に対して申立てがなされた場合、労働局長は使用者に対し調査を命じることができます(雇用法81D条)。また、セクハラを行なった者が個人事業主たる使用者であった場合、労働局長は人的資源大臣が定める方法により自ら調査を行います(同条)。

 また、連邦裁判所は2016年にセクハラを理由とする損害賠償請求を肯定しているため、被害を受けた労働者は加害者に対し直接損害賠償を求める訴訟を起こすことにより救済を受けられる可能性があります。

(4) セクハラに関する掲示

 2022年改正雇用法(Employment (Amendment)Act 2022)により、使用者は、常時、セクハラ防止に関する啓発のための掲示物を就業場所の見やすい場所に掲示しなければなりません。