(1) 電子署名の根拠法および定義
商法(Código de Comercio)によると、電子署名とは、電磁的記録に含まれ、添付され、または論理的に関連付けられた電子形式のデータで、電磁的記録に関連して署名者を特定し、署名者が電磁的記録に含まれる情報を承認することを示すために用いられ、手書きの署名と同じ法的効果を生じ、法廷での証拠としても認められるものと定義されています。
電子署名のうち、後述(3)記載の要件を満たす電子署名は「高度または信用性がある電子署名(Firma Electrónica Avanzada o Fiable)」として区別されています。
さらに、高度電子署名法(Ley de Firma Electrónica Avanzada)において、署名者を識別することができるデータと文字の組み合わせで、署名者の排他的な支配下で電子的手段により作成され、本人および参照するデータのみにリンクされ、その後のこれらの変更が検出可能で、自筆の署名と同様の法的効果をもたらす署名が「高度な電子署名(Firma Electrónica Avanzada)」として定義されています。メキシコ国税庁(Servicio de Administración Tributaria)が発行する電子署名e.firmaは、同法の適用を受ける高度な電子署名になります。
(2) 電子署名の有効性
電子署名の有効性に関しては、当該電子署名を含む電磁的記録が商法の規定等に準拠していることを条件に、その電磁的記録は、紙面上作成署名された文書と同じ法的効果を持つとされていることから、電子署名は自筆の署名と同等の効果を有すると考えられます。また、同様に、高度電子署名法においても、高度な電子署名が付された電子文書および電磁的記録は、自筆の署名が付されたものと同じ効果を有するとされています。
商法においては、電子署名による署名者の義務として、電子署名を作成するために使用する秘密鍵等データの不正利用を防止するために真摯に行動し、合理的な手段を確立することや、署名者と秘密鍵のつながりを確認する証明書の有効性や内容の正確性を確保するために、合理的な注意を払って行動することなどが求められています。
(3) 高度または信用性がある電子署名
次の要件を満たした電子署名は、上述の高度または信用性がある電子署名とみなされます。
- 会社の秘密鍵等のデータは、それが使用される文脈において、署名者にのみ対応すること。
- 秘密鍵等のデータは、署名の時点において、署名者の排他的な支配下にあること。
- 署名後に行われた電子署名の改ざんを検出することが可能であること。
- 署名後に行われた電磁的記録の情報の変更を検出することが可能であること。
ただし、当該電子署名の信用性が争われた場合、以上の要件にかかわらず、当該電子署名に信用性が認められる他の事情を明らかにすることによって、電子署名の信用性があることを証明することもできます。また、上記要件を満たす場合であっても、署名者の承諾の意思表示が表れていないとして、当該電子署名の信用性を争う証拠を提供することも可能とされています。
さらに、メキシコ以外の国で作成または使用された電子署名については、同等の信用性があれば、メキシコで作成または使用された電子署名と同様の法的効果をメキシコにおいても有するとされています。
メキシコでは、民間の商取引等において電子署名が用いられる例は、まだまだ少ないと感じています。メキシコ企業が電子署名の採用を見送る要因としては、従前紙面上で自筆により行われた署名からの変化に対する抵抗や電子署名の利点を認識できていないなどといった理由が多いと言われています。
しかし、COVID-19のパンデミック以降、電子署名を採用する企業も増えてきており、メキシコでの電子署名の活用の流れは進むものと思われます。